人気ブログランキング | 話題のタグを見る

カロリー制限食から糖質制限食へ

Medical Tribune

"あべこべ" になった食事療法の今後
時代の変化を問う<2> 
Interviewee | 北里研究所病院糖尿病センター長 山田 悟氏
解説 | 2017.01.06 14:27

山田氏 この10年で臨床栄養学の領域では多くの研究成果が蓄積され、公的指針も改訂を重ねた。山田悟氏は、この間の変化を"あべこべ"になったと形容する。"あべこべ"とはカロリー(エネルギー)制限食あるいは脂質制限食※が標準的食事療法の地位から転落する一方、糖質制限食(「読み解くためののキーワード」参照)が健康的な食事の1つとして認知されるようになった米国の状況を意味する。今後の食事療法の在り方を同氏に聞いた。

※カロリー制限と脂質制限は別の概念だが、カロリー制限食においては通常、脂質を中心に総カロリーの摂取制限が行われるので、ここでは両者を「カロリー制限食」でまとめる

日米で脂質摂取制限が見直し

――この10年の臨床栄養学の変化をどう見るか。

 2015年に米国保健福祉省と米国農務省が食事療法のガイドラインを発表しているが、それに対する論評では、同ガイドラインにより40年来の米国の栄養政策が"reverse"されたとしている(JAMA 2015; 313: 2421-2422)。公的指針の改訂では"revise"などがよく用いられるが、"reverse"は珍しい。"reverse"とはゲームのリバーシ(オセロ)からの連想で分かるように、白黒が逆転する状況を意味する。"あべこべ"になったのである。

 1980年以来、米国はカロリー制限食を推奨してきたが、2015年版ガイドラインでは脂質の摂取量を制限しても心血管疾患のリスクが減らないことを明言。脂質摂取量に関する制限が撤廃された。同じ年に改訂された厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」でも、脂質の摂取制限が25%から30%に緩和され、コレステロール摂取制限は撤廃された。日本動脈硬化学会もこのコレステロールの指針について、健常者においては賛同している(高LDLコレステロール患者には当てはまらないとしている)。

 一方、米国では糖質制限食への評価が高まっている。米国糖尿病学会(ADA)の食事療法に関する勧告を見ても、2006年には「糖質制限食は推奨されない」だったが、2008年には肥満治療の選択肢の1つに格上げした。ただし、この時は腎機能、脂質プロファイルのモニターを課していたが、2013年にはそうした記載もなくなり、各種食事療法が糖尿病治療食として受容可能とされた。

8年までの安全性・有効性は証明


――糖質制限食の評価を高める根拠となったエビデンスは。

 2007〜08年に発表された、肥満者を対象とする2件のランダム化比較試験(RCT)がきっかけだ。AtoZ試験では1年の介入により、糖質制限食がカロリー制限食などに比べ減量に有効であることが示された(JAMA 2007; 297: 969-977)。DIRECT試験では2年の介入により、糖質制限食は地中海食とともに、カロリー制限食よりも減量効果、トリグリセライドやHDL-Cなどの脂質改善効果が高いことが判明した。HbA1cの改善は糖質制限食が最も優れていた(N Engl J Med 2008; 359: 229-241)。介入解除後4年の追跡研究(計6年の追跡)でも、糖質制限食のカロリー制限食に対する優位性は維持されていた(N Engl J Med 2012; 367: 1373-1374)。

 2型糖尿病への介入としては、カロリー制限食と糖質制限かつ地中海食の2群を比較した介入期間4年のRCTがある(Ann Intern Med 2009; 151: 306-314)。後者は前者よりHbA1c改善効果が優れていたが、その効果は介入解除後4年でも維持されていた(Diabetes Care 2014; 37: 1824-1830)。糖質制限食の有効性・安全性は8年までは証明されたことになる。

 日本のエビデンスとしては、観察研究ではNIPPON DATA80の解析研究が代表的だ。1万人を29年追跡し、糖質の摂取量が少ない群で死亡率が低いという結果だった(Br J Nutr 2014; 112: 916-924)。介入試験はわれわれ、順天堂大学のグループが2型糖尿病を対象にそれぞれRCTを行っている。介入期間は数カ月だが、糖質制限食はカロリー制限食に比べ血糖改善効果が優れていた(Intern Med 2014; 53: 13-19、Clin Nutr 2016年7月18日オンライン版)。

70〜130g/日の糖質を推奨

――先生が推奨する糖質制限食は。

 糖質摂取量1食20〜40g、間食10g、1日70〜130gを緩やかな糖質制限食「ロカボ」として推奨している。DIRECT試験で採用された食事(1日120g未満)に近い。カロリー制限食のように煩雑なカロリー計算を行わなくて済み、糖質以外の食事制限はないので、継続しやすいと考えているが患者次第だ。食事療法によってQOLが著しく低下するようではいけない。指導は一律70〜130gだが、その患者なりの糖質制限が実践できればよいと考えている。それで血糖コントロール不良なら、薬物療法を併用する。

――より厳格なケトン体産生レベルの糖質制限食(1日50g未満)については。

 ケトン産生食はてんかん治療食として古くから実践されている。がんや認知症の治療食としても期待が大きくなっているようであり、メリットを享受できる患者がいると確信する。ただし、幅広い患者に無条件に推奨することは現時点では賛同できない。国際スタディグループが推奨するように(Epilepsia 2009; 50: 304-317)、カルシウムやビタミンDのサプリメント服用、尿アルカリ化の促進、アシルカルニチンなどのモニタリングが必要かもしれないからである。

――糖質制限食以外に糖尿病患者などに適する食事療法はないのか。

 地中海食やDASH食も優れた食事療法だと思う。ただし、大量のオリーブオイルは現在の日本人の味覚に適さないことがある。ごま油の代用など日本人向けのメニューを考える必要があるだろう。

カロリー制限食こそ安全か

――糖質制限食の安全性を疑問視する研究もあるが。

 そのような研究は欧米人を対象とした観察研究か動物実験にしか存在しない。例えば、能登洋氏らが欧米の観察研究9件・計27万人のメタ解析を行い、糖質制限により死亡リスクが上昇するとしている(PLoS One 2013; 8: e55030)。NIPPON DATA80と真逆の結果で解釈に困るが、少なくとも日本人においてはNIPPON DATA80の結果を優先すべきだろう。

 そもそも観察研究にはバイアスが付きもので、ADAは観察研究を基に食事療法のガイドラインを作成しないと明言しているほどだ(Diabetes Care 2014; 37: e102-e103)。食事療法の介入試験は、DIRECT試験でさえ1群100例程度だが、数万人を対象とした観察研究より信頼性が高いと考えられる。

――糖質制限食は長期的安全性が確立されていない、という批判には。

 前述のように、8年までは糖質制限食の安全性を示した研究がある。むしろ、カロリー制限食こそ長期的安全性が科学的に証明されていない。日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2016」では、身体活動量に応じた摂取カロリーを示しているが、専門家のコンセンサスにすぎず、身体活動量が少ない患者に標準体重1kg当たり25〜30kcalのカロリー制限は相当に過酷だ。低栄養やサルコペニアのリスクが懸念され、その安全性は検証されてすらいない。

 また、カロリー制限食の減量に対する有効性は証明されているが、血糖改善のエビデンスは乏しく、長期罹病糖尿病患者に対しては無効かもしれない。糖尿病の食事療法としては糖質制限食の方が優れている。

――糖質制限食は糖尿病腎症などにも適応できるのか。

 以前は糖尿病腎症への適応を懸念していた。それは蛋白制限食との両立が困難だからだ。しかし、慢性腎臓病患者に対して蛋白制限食は末期腎不全を予防しないどころか、死亡率を上昇させることが分かった(Am J Kidney Dis 2009; 53: 208-217)。われわれの施設では、原則として糖尿病腎症への蛋白制限食を中止し、糖質制限食を解禁している。

 1型糖尿病では、応用カーボカウントの知識を得た患者であれば問題なく適応できる。SGLT2阻害薬服用者ではケトン体産生が必発となるが、EMPA-REG OUTCOME試験のサブ解析から、SGLT2阻害薬の臓器保護作用の機序はむしろケトン体にあるとの仮説(Diabetes Care 2016; 39: 1108-1114、2016; 39: 1115-1122)が出てからは勧めている。

「糖質制限食の優位性を固めたい」

――今後の取り組みは。

 日本糖尿病学会などで、糖質制限食の是非が議論されるようになったのは、5年ほど前だ。ディベートなどの機会も増えてきた。学会の主流はカロリー制限食を支持する立場だが、糖質制限食への理解者も徐々に増えてきている。私にとって、これまではカロリー制限食の地位まで糖質制限食を高めることが目標だったが、2017年は糖質制限食の優位性を固める元年としたい。ガイドラインにそのことを明記することが目標だ。

 社会への浸透にも取り組みたい。私が2013年に立ち上げた食・楽・健康協会は「ロカボ」の普及を目指している。徐々にだが、賛同する企業、料理家、自治体が増えている。ガイドラインが変われば、「ロカボ」食の開発も一気に加速し、社会全体がその価値を享受しやすくなるだろう。


何だかんだ言いながら糖尿病の当食事療法は、糖質制限制限食へと流れています。
血糖を上げないような食事をしようとすれば糖質制限食ですよね。
素朴に考えると良く分かります。

======================================

「スーパー糖質制限」実行中。
本日8時半血糖値:92mg/dl。

=============================================


by hanahanak2 | 2017-01-10 22:07 | 糖質制限 | Comments(0)